風は見えないが、樹々の葉が揺れ動く時に風を感じる。葉が揺れて擦れて木の梢から時々音が生まれる。見えないが、音は方々から聞こえてくる。音は物が振動して波になって奏でられる。また、音は文字としても紡がれる。音はおもしろい。
【 音楽 と 楽音 】
(例)「何千人という学生を指導してきたが、音楽と楽音の違いを的確に言えた者は一人もいない。音楽は芸術であり、楽音は楽器の音なのだ」」
少々苦し紛れの例文だと認める。解説は辞典の助けを借りることにしよう。
音楽とは「心の高揚・自然の風物などを音に託し、その強弱・長短・高低や音色の組み合わせによって聴者の感動を求める芸術」。聴き手が感動してこその音楽なのだ。他方、楽音とは「人間の耳に快感を与え一定の高さのものとして認識される、弦楽器・管楽器などの音」。これも快感を与えないといけないのだ。
【 大音 と 音大 】
(例)「もっと大音を響かせるようにして名乗りたまえ。君の声は音大卒とは思えないほど小さく弱々しいぞ」
辞典に大音という見出しはない(大音声や大音量ならある)。以前、何かの本で「大音を出す」という表現を見た。昔は「大音上げて名乗る」などの言い回しがあったという。
音大でボイストレーニングをすれば大音を響かせるようになれるだろうか。ところで、わが国には約80の音大があるそうだ。美大が30校だから、音楽という芸術の人気ぶりがわかる。
【 音波 と 波音 】
(例)「ロマンを感じさせる文学的な波音は、実のところ、水中を伝わる音として知覚される、物理的な音波という波動にほかならない」
ものが振動すると音波が生じる。音波は空気中や水中を伝わる。水中を伝わる音波が波音だ。波は音を連れて、押し寄せては砕け、そして引いていく。上田敏の訳詩集の題になっている『海潮音』もまた波音。洒落た響きがある。
【 音声 と 声音 】
(例)「口と喉と胸を使って言語を形作るのが音声なら、声音はいったい何ですか?」「うーん、声音とは……こえのことだよ」
音声は音がことばとして発せられて声になる。それなら声音も同じではないかと思い、辞書を調べてみたら「個々に、またその時々によって変わる声」と書いてあった。結論:音声も声音もこえである。
〈二字熟語遊び〉は、漢字「AB」を「BA」と字順逆転しても、意味のある別の熟語ができる熟語遊び。例文によって二つの熟語の類似と差異を炙り出して寸評しようという試み。大きく意味が変わらない場合もあれば、まったく異なった意味になることもある。熟語なので固有名詞は除外する。