ネットからダウンロードした地図のコピーを穴が開くほど見、住所のメモと案内表示を何度確認しても、目指すホテルに辿りつける希望は湧いてこない。これがヴェネツィアの迷路か。
ヴァポレットという水上バスで運河を通り抜け、サンマルコ広場手前の船着き場ヴァッラレッソから徒歩にしてわずか5、6分の所。目と鼻の先のように思えて、これがそう容易ではない。が、人にたずねてようやくホテルに着いた。
宿泊するのは別館のほうらしい。本館からは中国人系のボーイが連れて行ってくれた。小柄な彼は大きくて重い旅行カバンを二つ、ひょいと左右の手に一つずつ持つと、一度も地面に置くことなく軽やかに歩を進めた。遠く感じたが、たぶん約5分、何度も小運河をまたぐ階段を上り下りし、運河沿いの小道を通り抜ける。いわゆるバリアフリーな箇所などどこにもない。やっぱり迷路だ。
二度目のヴェネツィア、五年半ぶりだ。和辻哲郎は『イタリア古寺巡礼』の末尾で、「ヴェネチアには色彩がある」と印象を語っている(1927年にしたためた手紙を編集した紀行文だ)。「色彩がある」の解釈は難解だが、"セレニッシマ(Serenissima)"という愛称をもつヴェネツィアの色彩は一にも二にも「青」だろう。このことばはserenoの最上級で「晴朗きわまる」を意味する。
多くの観光客はここか島外で一泊する。たしかに観光だけならば半日あれば名所はなぞれる。それならば前回体験済みだ。同じホテルで四泊すれば、ほんの少しくらい「住民」の視点に立ってセレニッシマを満喫できるかも、と目論んだ。
ここには自動車は一台もない。自動車どころかハイテクめいたものが一切見当たらない。いま「満喫」と言ってみたが、実はそれは、不便と共存する「快適」のことなのである。
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空の色や光の加減、眺める角度によって運河の青は微妙に移ろう。何度見ても同じ運河なのだが、印象はそのつど変わるのだ。
サンマルコ広場前のラグーナ(潟)は、高潮になると、1メートル以上水面が上がり、広場は水浸しになる。 ![]()
黄昏時? この写真を見れば誰しもそう思うだろう。だが、これは早朝のサンマルコ広場である。早朝に浮かび上がるシルエットも格別だ。



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