プロ意識のメンテナンス

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 そのイタリアンレストランにはもう二年近く行っていない。一時期は週に一回ランチに通い、夜も何度か利用した。だが、突然行かなくなった。近寄らなくなった理由は複数あるが、突き詰めれば「オーナーシェフのプロ意識の欠如」ということになるだろう。

 数回足を運んだ時点で、彼が相当な頑固者であることはわかった。しかし、オーナーが頑固であること自体は店から遠ざかる決定的な原因にならない。彼以上に頑固で何事にも強烈なこだわりを持っているシェフならどこにでもいる。頑固やこだわりは自分自身や素材やレシピやスタイルに向けられているかぎり、何の問題もない。むしろプロフェッショナルとしては必須の性格と言ってよい。

 相当親しくなったので、彼のためになればと思い時折アドバイスをするようになった。自分で言うのも変だが、決して常連顔をしようとしたのではなく、純粋に成功してほしいという思いからである。時にはマーケッターとして、時にはこの界隈で二十年間ランチを食べてきた者として、時には惜しまれながら廃業していった数多くの飲食店の目撃者として・・・・・・。ぼくは何回かにわたって次のような質問をしたり指摘をしたりした。括弧内が彼の反応である。

 この界隈にはイタリアンの店がここ以外に5店舗あり、フレンチも加えると8店舗になる。知っているか? (二つは知ってますよ) どちらかの店で食事をしたか? (自分も仕事をしているから行けないですね) 二筋向こうのA店は日曜日も営業しているから、一度行ってみたら? (子育てで行けないし興味もないです) あなたの店は本場仕込みの手打ちパスタが売りだが、お客さんの好みはいろいろだから乾麺も使ったら? (いや、手打ち麺でいきますよ) 日本人は乾麺のアル・デンテ(固ゆで)好みが多いと思うけど・・・・・・? (そういう人は他の店に行けばいいでしょ) この間、何々という料理を食べたけれど、一度試してみたら? (あれって、そんなに旨くないけどなあ) 来月からイタリアに行くけれど、何か欲しいものや情報はない? (そんなにしょっちゅう飛行機に乗っていると、いつか落ちますよ)

☆ ☆ ☆

 頑固とこだわりが顧客にとって棘にならなければそれでよし。しかし、この最後の対応は残念ながら棘になった。それまで諸々の気がかりを許容してきたのだが、すべてがマイナスに転じた瞬間であった。イタリアンなのに音楽が合っていない、アニメのフィギュアで店を飾っている、愛想がよくない、ワインの品揃えが少ない・・・・・・味がいいという理由で、すべてOKにしてきたんだけどなあ。

 それでもトータルすれば、客の反応はややプラスなのだろう。それが証拠に、店は存続している。おそらく一定の固定客があるに違いない。

 ぼく自身は手打ち麺が好物である。たしかにイタリアの食文化の中心であるトスカーナ州(たとえばフィレンツェ)やエミリア・ロマーニャ州(たとえばボローニャ)では手打ちが主流だ。ボローニャ名物ミートソースが平たい麺にまつわりつくボロネーゼは絶品である。しかし、フィレンツェでもボローニャでも普通にアル・デンテのパスタも用意している。目の前の客の、この程度の要望に応えたからといって、プロのプライドに傷などつくものか。

 プロ意識、大いに結構である。プロフェッショナリズムが不足しがちな現在、さすがプロという人たちに出会いたい。しかし、時に応じて客観的な光を自ら求める努力をしておかないと、知らず知らずのうちに共感性に乏しいプロ意識を培養してしまうことになる。一事が万事にならぬよう、プロ意識にも定期的なメンテナンスが必要である。      

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プロフィール

岡野勝志(おかのかつし)
1951年大阪生まれ

企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長
企画アイディエーター
岡野塾主宰

ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。
マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人材の課題に対して、「即答即決アイディエーティング」をおこなっている。

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