週刊イタリア紀行No.34 「レッチェ(1) イタリア半島の踵にて」

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 イタリア半島が長靴に比喩されるのはご存知の通り。長靴の代わりにヒールのあるサッカー靴に見立てると、シチリアというサッカーボールを蹴っているかのようだ。前回取り上げたアルベロベッロからさらに南東の方向に下る。ヒールのほぼ先端部はアドリア海に面しており、対岸にはアルバニア共和国、その下にギリシャが控えている。レッチェはまさにそのヒールのところに位置している。七年前、「とうとうこんなところまで来たか」と感慨深く街を歩いた。

 ヴェネツィアやフィレンツェやローマに比べれば知名度は格段に低い。特別な関心や縁やテーマがあれば別だが、イタリアについて語るときにレッチェが話題にのぼることはまずない。こんな紀行でも書かないかぎり、記憶の底に沈んでしまう存在だろう。だが、昨年、オフィス近くに"Lecce"という、イタリアンバールとカフェレストランを融合したような店がオープンした。エスプレッソとカフェラッテがおいしいので時々足を運ぶ。以来、本場レッチェもぼくの中でクローズアップされるようになり、アルバムを引っ張り出したりバロック都市の本を読んだりしてみた。

 だいぶ街のイメージが甦ってきたところだが、一番印象に残っているのは建物でも石畳でも遺跡でもなく、散歩の帰りに寄ったスーパーでの「論争」である。レジで現金を払ってその場を立ち去ろうとした直前に計算間違いに気づいた。品物をすべて見せレシートと照合して合計が間違っていることを説明したが、レジのおばさん、頑として受け付けない。「お前さんはいったんこの場を離れた。その直後に商品をバッグかどこかに隠しただろう。このわたしが間違うはずがない」などとジェスチャーと大声でわめく(こんなときのイタリア人は驚くほど早口)。だが、決してひるまず毅然と対応するべし。少々時間はかかったが言い分を通し、隣のレジのお兄さんや順番待ちするお客さんらの視線を味方にして、計算間違いを認めさせることができた。それでも、おばさんは一言も陳謝せず、札と小銭の混じった不足分のお釣りを無愛想に差し出した。

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 加工に適した石灰石がこの一帯の「名産」であり、それゆえに石をぜいたくに使った建造物が競い合う。おおむね17~18世紀に最盛期を迎えたバロック建築がレッチェの最大特徴になっている(「バロックのフィレンツェ」がレッチェに用いられる比喩だ)。古代ローマ時代に起源をもつこの街は中世に迷路のような都市構造に変容していった。たしかに地図に目を凝らしてみれば、この街は主要な通りは真っ直ぐに伸びていてわかりやすいが、曲がりくねった細い通りや小道が交錯しながら市街空間を形成している。今にして思えば、さほど迷わなかったのは深部にまで足を踏み入れなかったせいだろう。

 それでもなお、ぼくが宿泊したホテルが市街地の西の地区にあって、その場所から城門、教会、広場、闘技場跡を位置取りしていた脳内地理が完全に間違っていたことがついさっき判明した。上下左右がほとんど逆だった。それもそのはず、ホテルの位置は西ではなく、街の東のはずれだったのである。

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ネガフィルムをスキャナで読み取った画像だが、建物のブロンズ色がまずまずきれいに再現できている。これが、金色に近い黄土色の、この地方特有の石灰岩の色合いである。(左)カルロ5世の城。(中央)凱旋門様式の城門。(右)遠目に見ると、立派な門構えである。

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(左)イタリアのどこの街にでもありそうな通りだが、ブルーグレー色に染まる石畳が印象的だった。(中央)エクステリアの随所にレリーフなどの意匠を凝らしてある建物が目白押し。(右)ずっしり感とユーモアを巧みにデザインした扉の把手。

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ドゥオーモ広場を取り囲むバロック様式の建物。(左)広場の正面に位置するドゥオーモ。(中央)高さ70メートルの鐘楼。(右)カトリック神学校(セミナリオ)の集会。

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(左)実際に佇むと、想像以上に空間が広がっているドゥオーモ広場。

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プロフィール

岡野勝志(おかのかつし)
1951年大阪生まれ

企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長
企画アイディエーター
岡野塾主宰

ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。
マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人材の課題に対して、「即答即決アイディエーティング」をおこなっている。

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