救いがたいほどの"センス"

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 先週の土曜日である。出張のため朝8時半頃最寄駅から地下鉄に乗った。マスク着用の乗客がちらほら見えるが、土曜日のせいか車内は空(す)いている。ここ三年間職住接近生活をしているので、出張以外はあまり地下鉄に乗る機会はない。たまに乗れば混んでいるので車内の広告にまで目が届かない。その日はゆったり座って車内吊りポスターをじっくり「品定め」することができた。

 いったいどうしたんだ、大阪市交通局! 思わず内心そう叫び呆れ返った。シイタケとリンゴを擬人化したイラストが描かれた「座席の譲り合いマナー」を促すポスター。そこにはこんな見出しが書かれてあった。

 互いに譲って うれシイタケ!

 「どうぞ」の笑顔で すっきリンゴ!

 これではまるで「おぼっちゃまくん」ではないか。「そんなバナナ」や「おはヨーグルト」を思い出した。いや、こんな言い方はおぼっちゃまくんには失礼だ。おぼっちゃまくんにはダジャレという売りのコンセプトがあった。譲り合いマナーになぜシイタケとリンゴなのか―必然性が見えないから、単なる思いつきのダジャレなのだろう。一方がキノコで他方が果物というミスマッチも相当にひどい。

 正確に言えば、こういう類いのことば遊びはダジャレとは少し違う。技としてはダジャレよりもうんと簡単で、一文字だけ合わせたら一丁上がりだ。これがオーケーなら、「うれシーラカンス」でもいいし「すっきリスザル」でもいい。要するに、「シ」と「リ」で始まる単語なら何だって成立してしまう。

☆ ☆ ☆

 シイタケとリンゴが大阪市の名産品なら理由もわかる。地下鉄のどこかの駅でシイタケとリンゴの物産展があるのなら、短期の季節キャンペーンだろうとうなずける。だがそんな深慮遠謀はまったく感じられない。誰がどのような経緯でシイタケとリンゴという案に辿り着いたのか―ぼくの思いもよらぬ狙いがあったのならぜひ聞かせてもらいたいものである。

 ポスターでここまで救いがたいほどのセンスを暴露しながら、車掌は「インフルエンザ予防のためにマナーとしてマスクを」と生真面目に車内放送していた。トーンが合っていない。そのポスターを見ながらマイク放送を聞いて、同一の発信源とはとても思えなかった。まあ、こんなことはどうでもいい。何よりも、財政難の折、一人前の大人にマナーを促すようなPR活動にお金を投じるのは即刻やめるべきだろう。 

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プロフィール

岡野勝志(おかのかつし)
1951年大阪生まれ

企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長
企画アイディエーター
岡野塾主宰

ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。
マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人材の課題に対して、「即答即決アイディエーティング」をおこなっている。

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