問いの意味と意図

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 先週の書評会では『足の裏に影はあるか? ないか? 哲学随想』という本を取り上げた。その中に『「問い」と「なぞなぞ」』という随想があり、次のようなくだりが興味を惹いた。

 「問い」の意味は分かっていて、その「答え」を求めるというのが、普通の「問い」の場面である。しかし、なぞなぞの方は、まず「問い」が何を聞こうとしているのかが、よく分からない。いや正確に言うと、「問い」の表面的な意味(字義通りの意味)は分かるのだが、それがさらに何を意味しているのかが、よく分からない。意味の意味が不明なのである。なぞなぞでは、「答え」を探す前に、まず「問い」の意味を考えてみる必要がある。

 発した問い自体がよくわからないというのは、なぞなぞにかぎった話ではない。問うている本人自身が何を聞いているのかをよくわかっていない―そんなことはよくある。なぞなぞでは答える側が問いの意味を出題者に聞くことはめったにないだろうが、ふだんの生活や仕事では「意味不明な問い」に義務的に答える必要はなく、意味がわかるまで聞き返すなどして確認すればいい。

 意味と同等に大事なのは、問いの意図だろうとぼくは考える。問いの意味はわかる。しかし、意表を衝かれてうろたえたり、瞬時に動機がわかりかねる。そんなとき「この人、なぜこのことを問うているのだろうか?」と一考してみるべきだと思う。ついつい反射的に答えを出そうとしてしまうのは、問われたら答えるという幼児期からの学習癖のせいか、あるいは即答によって賢さと成熟を誇示しようとするせいなんだろう。問いの意味と意図の両方がわかるまで、問いへの答えを安受けしてはいけない。

☆ ☆ ☆

 ギリシア神話に出てくる巨躯のアトラス。両腕と頭で天空を支える図を見たことがあるかもしれない。戦いに敗れたアトラスがゼウスによって苦痛に満ちた罰を与えられる。世界の西の果てで蒼穹(そうきゅう)を支え続けなければならないのである。経緯はともかく、アトラスがそういう状況にあることを想像していただこう。そこで、次なる、別の本からの引用。

 「アトラスが世界を支えているのなら、何がアトラスを支えているの?」

 「アトラスは亀の背中の上に立っているのさ」

 「でも、その亀は何の上に立っているの?」

 「別の亀だよ」

 「それじゃ、その別の亀は何の上にいるの?」

 「あのね、どこまでもずっと亀がいるんだよ!

 この話はぼくがアメリカで買ってきた本の冒頭に出てくる(いずれ完読したら書評会で取り上げようと思っているので、書名は伏せておく)。「アキレスと亀」は有名な話だが、これは「アトラスと亀」なのでお間違いなく。ギリシア神話ゆかりのアトラスを引っ張り出して、ここに世界を支える亀を登場させると、なんだかインドの宇宙観に近いものを感じてしまう。

 それはともかく。問いには答えられないものや、上記の例のようにキリのないものもある。「何が支えているか?」「何の上に立っているか?」などはとても意味がわかりやすい質問だ。だからと言って、真摯に必死で答えていくと、このやりとりは応答側に天空の重さの負荷をかけてしまうことになる。けれども、問いの意図を推し量れば、若干の好奇心に動かされた程度のものか、または、無理を承知のお茶目な悪戯心のいずれかだと値踏みできる。意図を見極めておきさえすれば、やがて答えの風呂敷を畳(たた)める。上記の例に一応の終止符を打つには、「亀がずっと続く」とするしかなかったに違いない。

 問答が延々と続く「無限回帰」とも呼べる作業を、哲学の世界では古来からおこなってきたようだし、現在に生きるぼくたちもそんな状況に陥ることがよくある。だが、趣味ならばともかく、仕事にあってはいつまでも問いと答えを続けるわけにはいかない。どこかで問いを打ち切らねばならないのだ。この打ち切りを別名「潔さ」とか「粋」と呼ぶ。「どこまでもずっと亀がいるんだよ!」と答えるのもいいが、「アトラスの下に亀がいて、その下にも亀がいると答えた。もうそれで十分ではないか。それ以上問うのは野暮というもんだ」と答えてもいいのである。    

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プロフィール

岡野勝志(おかのかつし)
1951年大阪生まれ

企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長
企画アイディエーター
岡野塾主宰

ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。
マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人材の課題に対して、「即答即決アイディエーティング」をおこなっている。

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