読ませ上手な本、語らせ上手な本

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 去る6月16日に4回目を実施した書評会(通称"サビルナ")。今週の土曜日に久々の開催になる。およそ二ヵ月半ぶりだ。この間はまずまず本を読んでいて三十冊くらいになるだろうか。研修テキストの資料として読んだものもあるが、自宅か出張先や出張の行き帰りに通読したのがほとんど。総じて良書に巡り合った、いや、良書を選ぶことができた。読者満足度80パーセントと言ってもよい。

 先週から9月下旬の大型連休まで多忙だ。だから、書評会のためにわざわざ何かを選んで読むのではなく、最近読んだ本から一冊を取り上げて書評をすればよいと楽観していた。ところが、書物には、《読ませ上手》と《語らせ上手》があるのだ。読ませ上手な本とは、読んで得ることも多かったが、別に他人に紹介するまでもなく、また、ぼくほど他人は啓発されたり愉快になったりしないだろうと感じる本。他方、語らせ上手な本とは、批判しやすい本、賛否相半ばしそうな本、読後感想に向いている本、一般受けする「さわり」のある本である。残念ながら、この二ヵ月ちょっとの間にぼくが読んだ大半は書評向きではなかった。

 先々週に友人が"The Praise of Folly"という英書を送ってきて「一読してほしい」と言う。なぜ送ってきたかの子細は省略するが、これにしようかとも思った。種明かしをすると、この本はエラスムスが16世紀初めに書いた、あの『痴愚神礼賛』(または『愚神礼賛』)である(送ってきた友人はそうとは気づかなかったようだ)。この忙しい時期に300ページ以上の原書、しかも内容はカトリック批判(この解釈はやや微妙だが・・・・・・)。読みたくて読むのではないから疲弊する。だが、ぼくはこの本の内容をすでにある程度知っている。全文を読んだわけではないが、いつぞや和訳された本に目を通したことがあるからだ。A4一枚にまとめて10分間書評するくらいは朝飯前だろう。

☆ ☆ ☆

 しかし、やっぱりやめた。わくわくしないのである。ぼくがおもしろがりもしない本を紹介するわけにはいかない。ふと、先々週に上田敏の『訳詩集』を久々に手に取って気の向くままに数ページをめくったのを思い出す。スタッフの一人に薦めて貸したのだが、尋ねたら、まだ読んでいないとの返事。いったん返却してもらうことにした。この詩集は英語を勉強していた時代に愛読していたもの。原文の詩よりも上田敏の訳のほうがオリジナリティがあって、名詩を誉れ高い語感とリズムで溢れさせている。なにしろロバート・ブラウニングの平易な短詩をこんなふうに仕上げてしまうのだから。

  The year's at the spring,    時は春、
  And day's at the morn;      日は朝(あした)、
  Morning's at seven;         朝(あした)は七時、
  The hill-side's dew-pearl'd;   片岡に露みちて、
  The lark's on the wing;      揚雲雀(あげひばり)なのりいで、
  The snail's on the thorn;    蝸牛(かたつむり)枝に這ひ、
  God's in His heaven―       神、そらに知ろしめす。
  All's right with the world !    すべて世は事も無し。

 上田敏を知っている人は少ないだろうから、代表的な訳詩を三つほど紹介して、ついでに英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語に堪能な語学の天才で、驚くべき詩的感性と表現力の持ち主であるとエピソードを語ればよし―となるはずだった。しかし、この本はぼくが決めたルールに抵触することに気づいた。書評会では文学作品はダメなのである。がっかりだ。

 それで、二十年以上前に読んだ本を書棚から取り出して再読した。まだ書評は書いていない。この書物の価値は異端発想の考察にある。「一億総右寄り」とまでは言わないが、昨今の世情に対して少しへそ曲がりな発想をなぞってみるのもまんざら悪くはないだろう。いや、そんなイデオロギー的な読み方はまずいかもしれない。ところで、あと二日に迫った書評会だが、ぼくはほんとうにこの本に決めるのだろうか。もしかすると、仕事が順調に進んで時間に余裕ができたら、変えてしまいそうな気がする。

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プロフィール

岡野勝志(おかのかつし)
1951年大阪生まれ

企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長
企画アイディエーター
岡野塾主宰

ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。
マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人材の課題に対して、「即答即決アイディエーティング」をおこなっている。

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