再々、ノートのことについて

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 土曜日。朝から一路高松へ。大阪での私塾の翌日に当地でも私塾開催というスケジュールが9月から続いている。大阪と高松の講座はまったく別内容で、前者が全6講、後者が全5講。「すべて違う内容で丸一日というのは大変ですね」と同情してくれる人もちらほらいるが、同じ話を二日連続せねばならない苦痛に比べれば大したことはない。いや、それどころか知的好奇心を煽りながら新しいテーマを語れるのは幸せというものだ。今年は京都でも新作講座を6講終えているので、かなりの数のテーマを「語り下ろした」ことになる。

 ノートがはかどらない、というよりも、何をどう書けばいいかわからないと、ややおとなしい塾生のMさんが尋ねてきた。「何でもいいんです。とにかく気づいたこと、見たこと、学んだことを一行でもいいから書く。気分がよければそのまま二行目を書けばいいし、そこでぷつんと切れたらそれはそれでよし。たとえば・・・・・・」と、ぼくが新大阪から高松までの2時間弱の間に書いた数ページのノートを見せながら少々助言した。

 帰路は大阪まで高速バスにした。所要3時間。いろいろ考えたり本を読んだり。しかし、最後部のせいかどうか、少し風邪気味・腰痛気味のせいか、頭痛がしてくる。眠るのもままならない。ぼうっと窓外を見ていると、Mさんの「書けない悩み」のことを思い出す。「いや、ぼくだって書けないよなあ。こんな調子のときは絶対無理。いろいろと刺激もあり、こうして考えたりもしているのだけれども、そうは簡単にメモは取れないものだろうな」と初心者心理に感情移入していた。

☆ ☆ ☆

 今朝も体調がすぐれているわけではないが、一晩明けたら気分だけは引きずらないようにしている。そして、昨日のことを思い出したりしていた。振り返ってみたら、一日のうちにはいろんなことが起こったりさまざまなシーンを感知していることがわかる。岡山で800円の弁当を買ってマリンライナー車中で食べようとしたら、中身がついさっき購入時に見たサンプルと違っている。少し豪華なのである。表示を見れば1000円。レシートを確かめたら800円。店のおばさん、どうやら取り間違えたらしい。

 文化人類学の山口昌男の『学問の春』を車中で少し読み始めたら、テーマがホイジンガの『ホモ・ルーデンス』。日本語で「遊ぶ人」。この本はカイヨワの『遊びと人間』よりうんと難解で、二十代初めに読んだのだがあまり覚えていない。山口昌男先生が興味をそそるように取り上げているので、再読候補にしようと本棚を見るも、ない。誰もいない日曜日の今日の昼下がり、オフィスに行ってみたら見つかった。持って帰る。以上、たわいもないことだが、こんなふうにノートに書けばいいのである。日記のようになることもあるだろうが、ノートにはそんな制約はない。基本的には周辺観察と発想。

 あ、そうそう、もう一つ思い出した。高松の会場。講座開始前に缶コーヒーで一息つこうとしたら、若いお母さんと女の子がいた。女の子が綿菓子を食べている。会場の1階で地場産業展をやっているのだ。「失礼ですけど、その綿菓子、いくらでした?」と母親に聞いた。「ただです。アンケートに答えたらもらえますよ」。いや、綿菓子が欲しくて聞いたのではない。相場を知りたかっただけ。

 「3才半くらいかな」と聞けば、「4才になりました」と母親。青空に浮かぶ大きな雲を指差してぼくは女の子に話しかけた。「その綿菓子を作ったおじさんはね、朝早く飛行機に乗ってあの雲を取りに行ったんだよ。そしてね、お砂糖をふりかけてくれたんだよ」。女の子は、微笑む母親に照れくさそうに顔を向け、綿菓子を口元から離して白い雲と見比べていた。「さあ、行くわよ」の声に急かされて、女の子は歩き始めた。少し歩いてぼくのほうを振り返りにんまり顔で言った、「ウソでしょ?」 絶妙の間だったので、ぼくは吹き出した。

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プロフィール

岡野勝志(おかのかつし)
1951年大阪生まれ

企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長
企画アイディエーター
岡野塾主宰

ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。
マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人材の課題に対して、「即答即決アイディエーティング」をおこなっている。

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