普通が固有に化ける

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 もともと固有名詞だったのが普通名詞になった例に「サンドイッチ」がある。周知の通り、英国のサンドウイッチ(Sandwich)伯爵お気に入りの手軽な食事が人口に膾炙(かいしゃ)した。「ゼロックス」などもこの類で、「コピーして」の代わりに「ゼロックスして」などという言い方をよく耳にしたものである。ダルマも達磨大師にちなんだ玩具だし、弁慶の泣き所は「向こうずね」を意味する。内弁慶というのもある。空白の一日事件をきっかけに流行した「エガワる」はゴリ押しする意味で、江川選手という固有名詞をもじった例であった。

 これとは逆に、誰もが使ってきたはずのことばが、ある日突然固有名詞になるケースがある。商標登録されようものなら、下手に使えなくなってしまう。たとえば、「金のつぶ」。これなど日本語ネイティブみんなが共有していたことばなのに、いつの間にかRにマルがくっついて占有語になっている。喋る分にはいいだろうが、何でもかんでも登録認可が下りてしまうと、やがてちょっとした文書など書けなくなるか、書けるにしても「~は××の登録商標です」という脚注だらけの文章になってしまいそうだ。ことば狩りの一変型と言えば大袈裟か。

 名の知れたところでは、「株式会社人事部」に「株式会社総務部」だ。株式会社も普通名詞なら人事部も総務部も普通名詞。普通と普通を複合すれば固有になるとはこれいかに・・・。この手が通用するなら「株式会社株式会社」も可能なのだろうか。いや、これは冗談のつもりなのだが、もしかしてすでに実在しているかもしれない。「銀のようで実は金のつぶのような納豆」というネーミングに、ミツカンからはクレームがつくのだろうか。

☆ ☆ ☆

 「株式会社上(うえがおもしろい」と友人と冗談を言っていたことがある。とにかく領収書をもらうときにとても便利なのだ。「領収書の宛名はどうしますか?」に対して、「あっ、上でお願いします」と言えば済む。何しろ社名が「上様」なのである。聞き返されることもないし、どこかの会社で余りそうな「上と書かれた領収書」を集めることもできる。現在の社名が株式会社上田や株式会社上島なら、次回の社名変更時には、「田」や「島」を外す手もありそうだ。

 「そば処そば処」というネーミングはどこかにあるのだろうか。いまぼくはありえないと思って書いたのだが、油断はできない。何があっても不思議でないのがネーミングの世界だ。もしかすると「そば処うどん亭」や「イタリアレストラン仏蘭西屋(ふらんすや」があったりして・・・。会社の話に戻れば、わざわざ調べてはいないが、おそらく「株式会社カンパニー」は大いにありうる。だが、「株式会社会社」はさぞかし勇気がいるだろう。「もしもし、こちら株式会社会社の岡野と申しますが・・・」が一度で通じるとは思えない。

 一昨日、四天王寺方面をぶらぶら散策していたら、それまで一度も歩いたことのない東門前に出た。ふと見れば「喫茶店」があった。大きく「喫茶店」と看板が出ているのである。しかし、どこを探しても店名が見当たらない。「喫茶モーツァルト」とか「喫茶マグカップ」とかのカタカナ部分がどこにもないのである。もうお分かりだろう、店名が「喫茶店」なのである。交番で道を尋ねるとしよう。お巡りさんはこう言う、「次の角の喫茶店を左へ曲がってください。」 「あのう、喫茶店の名前は何ですか?」 「喫茶店です。」 「名前を聞いているんですが・・・。」 「うん、だから喫茶店!」 漫才のような、こんな会話が成立してしまいそうだ。

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コメント(3)

投稿者:松浦 陽司 | 投稿日時:2009年11月25日 09:52

株式会社 総務部は徳島の会社。
私の知り合いが経営しております。
こういったことを狙って会社名を付けたのか?
深い意味はないのか?
いずれにしても名刺交換したときにインパクトがあったのを覚えています。

投稿者:岡野勝志 | 投稿日時:2009年11月25日 12:13

株式会社総務部は知人でしたか? たしか名刺には「代表取締役部長」と書いてあると聞いたのですが、ほんとうですか?
ぼくの二十年前ほど昔の知人はずる賢い男で、テナントで入るビルの名称を自社の社名にするのです。たとえば「田中ビル」に入る前に、「株式会社田中産業」や「タナカ・トレーディング株式会社」などで定款をあげる。名刺をもらった人は「自社ビル」だと思ってしまうわけですね。半詐欺師のような彼の消息は不明です。

投稿者:松浦陽司 | 投稿日時:2009年11月25日 17:05

よく、名刺を見返してみると、
「総務部グループ 有限会社 総務部徳島」という会社名でした。
グループ会社なのですね。
分社化している会社のようです。
私の持っている名刺では単なる「代表取締役」でした。
本社の社長は「代表取締役部長」なのでしょうか?
ちょっと不明です。


それにしても、テナントで入るビルと同じ社名にするとは盲点でした(笑)

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プロフィール

岡野勝志(おかのかつし)
1951年大阪生まれ

企画の総合シンクタンク「株式会社プロコンセプト研究所」所長
企画アイディエーター
岡野塾主宰

ヒューマンスキルをテーマにしたオリジナルの新講座を開発し、私塾・セミナー・ワークショップ・研修のレクチャラーをつとめる。
マーケティング、コミュニケーションにまつわる企業や人材の課題に対して、「即答即決アイディエーティング」をおこなっている。

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