第1講 マジカルコミュニケーションの02 「コンセプト」
さて、コンセプトを形づくるヒントです。
▼ 「心象」を煮詰めるということ
ご存知の「はじめにことばありき」は、新約聖書『ヨハネによる福音書』第一章の冒頭に由来しています。そこでは次のように謳われています。
「はじめに言(ことば)があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言ははじめに神と共にあった。すべてのものはこれによってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった。この言に命があった。そしてこの命は人の光であった。光は闇の中に輝いている。そして、闇はこれに勝てなかった。」
「ことばは神であり、この世界の根源として神が存在する」と要約できます。キリスト教世界観では、創世は神のことば《ロゴス》から始まったとされているのです。ここで一言。ぼくはクリスチャンではありません。それどころか、気まぐれに神社仏閣に顔を出す日和見主義者であり、無神論者です。無神論者のくせして神を語るな! と言われそうですが、日本にそんな法律はありません。
ところで、あなたのアタマの中では最初にありきは「ことば」ですか? たとえば、ぼくが「富士山」と言うとき、あなたのアタマに「フ、ジ、サ、ン」という音が響きますか、それとも「富士山」という漢字が浮かびますか? 雪化粧した山の絵や写真が現われますか?
「富士山」ということばが耳に響くと、ふつうアタマはイメージを浮かべようとします。但し、富士山を知っているからそうするわけで、知らなければ画像も漢字も連想することはできません。もし知っている事柄や概念ならば、たとえばバレンタインデーのチョコレートなどと聞けば、まず浮かぶのはふつうイメージです。プレゼントをもらっているときの状況、自分とチョコレートの位置関係、あるいはチョコレートの形状や包み紙などが光景として見えてきます。
しかし、こんな状況はほんのひとときだけ。さらに何か考え事に没頭しようとしたり、意味なく窓外の景色に目をやったり、空をぼんやりと眺めたりしようとすれば、そこにことばが介入してきているはずです。いや、ことばで舵取りしなければ、アタマの中はとりとめのないイメージや音などで混沌とするばかりです。
ぼくたちが何かを考えようとするとき、過去から現在に至るまでに蓄積された膨大な量の写真やビデオを検索するのですが、そのときに必ず言語的な作用が働いているはずです。ちょうど、文字で書かれた索引を目印にファイルを探すように。
対人コミュニケーションの手段はことばです。そして、心象を煮詰めてコンセプトに仕上げようとする、言わば「自己内コミュニケーション」においても、ことばがいつも勇躍しているのです。
▼ アタマの中の「メタ言語」を出し尽くす
ことばとイメージが分離しないようにすること。このためには、イメージからことばを、ことばからイメージを次から次へと繰り出す習慣形成が必要です。たとえば、現物のメガネを見ると、「メガネ」「眼鏡」「glasses」などのことばが浮かぶ。辞書を引くと、「近視・遠視・乱視などの視力を調整したり、強い光線から目を保護したりするために用いる、凹または凸レンズや色ガラスなどを使った器具」などと書いてあります。しかし、定義の説明を読んでから、「あ、これはメガネのことだ」などと理解することはまずありませんね。
現物のメガネやメガネのイメージをさらにメタ言語まで広げていきます。メタ言語とは、言語を説明する別の言語。その言語をさらに説明しようとすれば、メタメタ言語が必要になります。これ、冗談のようですが、ほんとうに「メタメタメタ・・・n」と重ねてもいいのです。「物の善悪を見きわめる能力」という比喩、「目利き」などの言い回しもメタ言語です。さらに「めがねにかなう」、「めがねをかける、はずす」。関連語として、望遠鏡、双眼鏡、色眼鏡、金縁眼鏡、サングラス、伊達(だて)眼鏡、水中眼鏡、虫眼鏡なども記憶から飛び出してくるメタ言語群でしょう。
▼ メッセージに「気」を込める
アタマの中の記憶を注視するエネルギーは大変なもので、スタミナ不足の人はすぐに疲れてしまいます。そこで、目を外へ向けてみるのです。誰かと話したり辞書を引いたり本を読んだり。どんなささいな一言でも一片のイメージでもいい、とにかく気を入れてみる。コンセプトとは「想ひ」のことですから、気を込めてやらないといけないのです。
マジカルコンセプトを強化するセルフトレーニングをいくつか紹介します。
1.キャプション(写真説明文)は格好の練習になります。一枚の写真を一行か二行で説明するのです。見えるものだけでなく、見えざるものにも注視して、簡潔な文章をつくってみるのです。
2.「リンゴ」や「花火」などのことばで表される「イメージ」をアタマに描き、できるだけたくさんのメタ言語を単語単位または文章単位で書き連ねてみます。(例)りんご→(りんごの絵)→パイ、ジュース、ウィリアム・テルと弓矢、アダムとイブ、津軽地方特産の林檎菓子・・・・・・。
3.昨夜の食事時を思い出し、場、人、メニューなど、ありとあらゆる付帯状況を精細に描いてみます。誰かに話したり書いたりしてみます。 《03に続く》