第6講 ロジカルスキル入門 05

 

論理思考のツール(1

 

主張とは何か

 英語に"claim"という語がありますが、これはぼくたちがよく使う「クレーム」とは意味が異なります。和製のクレームは「文句」という意味合いが強く、英語では"complaint"になります。英語の"claim"は要求などの主張を意味します。

 どんな主張も「意見の誇示」です。なぜ誇示するのかと言えば、納得、共感、共有、同意などを対象に期待するからです。ぼくたちはどうでもいいことを主張したりしません。主張するかぎり、その主張を通したいのは当たり前です。

 では、どうすれば主張は通るのか。ぽつんと主張だけして知らん顔では誰も受け入れてくれません。「ホウレンソウを食べ過ぎるのはよくない」と言われても誰も信用してくれない。主張は証拠と論拠で信頼性を高める必要があるのです。

 たとえば「ホウレンソウには蓚酸が含まれている。蓚酸のエキスをマウスに与え続けると腎臓に結石ができた。ゆでにホウレンソウを摂取し過ぎてはいけない」と言われると、つい納得したり受け入れたりしてしまいます。実は正しい主張ではないのですが、偽りのメッセージも証拠と論拠で縁取りされると説得性が高まるのです。

 

ある主張とその否定

 主張の真偽を判定するのは容易ではありません。知識がなければ、ホウレンソウにまつわる証拠も論拠も検証することができないからです。誰かの主張を否定するのは容易ではないのです。

 「いや、そんなことはない。誰かが何かを主張したら、こっちもノーと主張すれば十分だ」という考え方もあるでしょう。しかし、これでは主張と主張がぶつかるだけで、一歩も前に前進しません。決裂覚悟の交渉ならいざ知らず、同じ組織の中でこんな主張と主張のいがみ合いをしていても建設的ではありません。

 主張の単純否定では話にならないのです。否定とは、ある事実や蓋然性が証明されるプロセスでフィルターをかけて検証することです。主張を支えている証拠と論拠をチェックすることです。そして、一点でも引っ掛かる点があれば、それが否定されます。証明はつねに「全体証明」でなければいけませんが、否定は「部分否定」で成り立ちます。

 

ド・モルガンの法則

 逆・裏・対偶という用語は高校時代に一度は勉強していますね。論理学や集合論を苦手にしている人は多いものです。そもそも論理の学習は国語の授業でおこなうべきだとぼくは考えています。数学の特殊なジャンルとして論理を扱うから、硬派で非実用的な学問というイメージがこびりついてしまっているのです。

 ド・モルガンという人はとても便利なことを考えてくれました。「AならばB」の逆が「BならばA」、「BならばA」の裏が「BでないならばAではない」、その逆が「AでないならばBではない」、その対偶が再び「BならばA」になるというような法則を打ち立てました。その結果、「PならばQである」が成立するならば、その対偶である「QでないならばPではない」がつねに成立することを証明したのです。

 

ANDOR

 「彼はうどんが好き」の否定は「彼はうどんが好きではない」です。うどんという一つの要素しかないので、単純に「~ない」とすれば否定文が出来上がります。しかし、「うどんとそば」の二つの要素を含む文章を否定するときは、このようなわけにはいかないのです。

 「彼はうどんもそばも好き」は「うどん」と「そば」をANDでくくっています。では、「彼はうどんもそばも好き」を否定するとどうなるでしょうか。「彼はうどんもそばも好きではない」? いいえ、これは間違いです。「彼はうどんかそばのどちらかが好きでない」が正しい答えです。「X AND Y」の否定は「not X OR not Y」という形をとるのです。ANDORになって、個々の要素が否定されている点に注目してください。

 次に、「うどんまたはそばを選ぶ」では「うどん」と「そば」の関係はORになっています。では、「この定食にはうどんまたはそばがついている」を否定するとどうなるでしょうか。こちらは、「この定食にはうどんもそばもついていない」になります。「X OR Y」の否定は「not X and not Y」です。ORANDになり、個々の要素が否定されます。

 一度慣れれば簡単です。「彼女の帽子はは赤でもなく白でもなかった」は「not X AND not Y」ですから、否定すると、ANDORに変わり、notが否定されるのでnotが消えます。ゆえに「X OR Y」、「そのハンカチは赤か白かのどちらかだった」となります。

 

《続く》
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