第1講 マジカルコミュニケーションの05 「ライティング」
表現という意味では、話すことと書くことは同じです。ところが、この二つのリテラシースキルの力量はあまり比例しません。あなたの回りにもいるでしょう。喋らせたら流暢で話しぶりも巧みだが、まるっきり書けない人。逆に、気の毒なほど口下手だが、見事に書き綴れる人もいます。
ぼくの知人に、難解な英文を見事に訳す男性がいます。しかし、彼は挨拶以外に英語を話せない。書くことも聴くこともダメです。要するに、英文を読めて日本語を書く以外はすべて苦手なのです。
▼ 単語やフレーズによる主題探し
書くべきことが決まっているならば、それをそのまま書けばよろしい。主題探しから始めるのなら、A3判かB4版の白紙を用意しましょう。書くにあたっては一つのキーワードとの出合いがたいせつなのです。テーマが明快でコンセプトが凝縮されていれば、書くべきことはおのずから明らかになるものです。
思いつくままことばを書き連らねます。場合によっては、ことばを書きつつ思いつきを触発します。関連しそうなものを線で結んだり括(くく)ったりしていくと、ハッと何かがひらめくことがあります。
書くなんて自分とは無縁と思っていても、書くことはトータルコミュニケーションの中では欠かすことのできない要素なのです。書くことは話すことや読むことに大きな質的変換をもたらします。もっと言えば、成人になって書いていなければ、なかなか言語能力がアップしないのです。
▼ ラフスケッチで構想を練る
書こうと思っているテーマをよく検証してみてください。大きすぎたり広すぎたり漠然としすぎたりしてはいけません。よく絞り込むことです。たとえば、「ブランド戦略の立て方」ではなく、「どうすればぼくたちの会社はこの地域で認知されるようになるか」というふうに。最初から大きな獲物を求めるのは禁物です。少々精度が落ちてもいいので、太めの鉛筆でスケッチを描くように、全体を眺め渡せるように練っていきます。
ぼくの場合は、まず重要ポイントを順不同、アトランダムでいいから書き並べます。下手な考え休むに似たり、とにかく大きな紙にどんどん書いていきます。忘れないうちに要点を先に書き出し、詳細は後で足していきます。不必要な情報や誤解を招く要素はなるべく書かないようにします。ただ、ぼくはブログなどではよく脱線しますけどね。
▼ 文章の目的は何か
あいさつ、お知らせ、依頼、報告、情報提供、指示・・・・・・。目的に応じて、情報の優先順位が変わり、表現や文体も決まってきます。
いつも読み手を想定すること。不特定多数の中から読み手を選ぶというよりも、最初から代表的な読み手のプロフィールをはっきりさせておきます。なお、情報が溢れて、誰もが多忙感の強い日々を強いられていますから、遠回りで大仰な文章はコミュニケーション障害になることを心得ておきましょう。わかりやすければいいという単純な話ではありませんが、わざと迂回する必要はありません。
▼ 主題文(キーセンテンス)を書く
キーワードを決めます。そして、その単語を核として主題文を書きます。主題文では主語と述語をはっきりさせること。主題文をどこで登場させるか、これこそが書き手の見せ場かもしれません。一度書いたからおしまいというわけでもなく、形や表現を変えて主題文を随所に登場させます。そうすることで、ストーリーに一本の道筋が出てきますし、読み手も追いかけやすくなるのです。
▼ つかみを書く
「このあいだ、おかしな夢を見ましてね。自分自身のお通夜の夢なんですよ。その模様の一部始終を二階のカメラから見ている感じ。日頃憎たらしいと思っているAも来ていてね、お焼香なんかしている。そして参列席に戻るや、隣に座っている仲間に『あの人のいない人生なんて夢も希望もないよ』と号泣しはじめた。夢から覚めたら、無性にAが愛おしくなってね。つい、電話をかけて『お通夜に来てくれてありがとう』とお礼を言ってしまった。」
当然ジョークだけれど、夢と現実を混在させる話などはいつも読者の関心を引くものです。テーマが『夢』であろうと、『お葬式』であろうと、『人間関係』であろうと、このつかみは使えます。一番伝えたいのは主題文ですが、いきなり主題文からではなく、好奇心をそそる導入を置くことによって主題文を生かすことができます。
読書でもセミナーでも、読み手や聞き手がずっとテンションを保つことがむずかしいことをぼくは体験的に知っています。話の随所に睡魔を退治するような仕掛けを散りばめることです。この仕掛けのことを、ぼくは「ことばのクールスペアミント」と呼んでいます。
▼ 同義語のニュアンスに強くなれば、適材適所のことばが見つかる
「正しい」「適切な」「正確な」「時宜を得た」「精確な」「的確な」「正統の」「正当な」「適正の」「公正な」「正規の」「本格的な」「タイムリーな」「精度の高い」など、あなたは文脈に応じて類義語をきちんと使い分けていますか。いや、少なくとも、これぞということばが見つかるまでアタマの辞書をまさぐるようにしてください。
▼ パンチのきいた表現を適切に使う
「すぐに」「とっさに」「瞬時に」「即座に」「あっという間に」。毎度毎度同じことばを使っていては魔法は使えません。たまには「間髪を入れず」という表現を使ってみる。すると、文章に力と妙が醸し出されるのを感じます。ところで、この表現、Microsoft Wordでは一発で出て来ないのです。「かんぱつをいれず」と入力すれば出てきますが、この読みは間違い。正しくは、「間、髪を入れず」で「かん、はつをいれず」と読みます。
自分で格言や諺を作るのは書く練習になります。たとえば、「人生」「幸福」「社会」「知識」「教育」「時間」などの抽象概念を使って作ってみる。四字熟語でも座右の銘でも何でもかまいません。自画自賛も大いに結構です。後世に残る名句をしたためてみようと意気込めば、埋れていた脳内語彙が目を覚まし始めます。 《06に続く》