第3講 日々の発想トレーニングの02 《インプットをアウトプットに変える》

▼ 終わりなき学び=インプットだけの切なさ

小学校6年、中学校と高校、いずれも3年、大学4年・・・・・・教育機関には「履修期間」があり、それを修了すれば「卒業」というものがあります。あなたは、あるテーマについて何かを学ぶとき、履修期間や卒業を想定していますか?

世の中、知らないことのほうが知っていることよりも圧倒的に多いのです。《未知:既知=:1》と類比してもいいくらいです。未知のうちに領域や期間を決めなければ、ぼくたちの学びは永久にさまよい続けるでしょう。未来永劫学び続ける姿勢は尊いですが、それだけでは不十分なのです。

ぼくは英語を独学していました。学校に行ったり留学したりしている人たちを見ていると、短期間に習得できている人が百人に一人もいないことがわかりました。そこで独習。他人から教わるよりも効率がいいと考えたからです。ある程度伸びたし、欧米人と議論もできるようになりました。それでも、何か物足りないものを感じていました。そこで、とても無茶だったのですが、二十歳前後に語学学校で教える側に回ってみたのです。

教える側とは、それまで積み重ねてきた量的インプットを質的アウトプットに転換する立場のことです。学習をアウトプットにつなげた時から、みるみるうちにさらなる上達が可能になり、何段階も上のステージに上がることができました。「教える者が教わる者よりもよく学ぶ」という教訓ですが、「アウトプットする者がインプットする者よりもよくインプットする」ということになります。わかりますか?

▼ 「宝の持ち腐れ」

 では、宝(インプットした知識や情報)を持っているだけで使っていない人間は、宝を持っていない人間と同じでしょうか? いいえ、決してそうとも言えないのです。

 宝を持っていること自体、いつかは「伝家の宝刀」に生まれ変わる可能性があります。伝家の宝刀とはある意味で持ち腐れなのです。いつ抜くかはわからないけれど、切り札になるだけの潜在能力はある。宝を持っていない人間に対して一種の抑止力になります。一流大学を出たバカを大勢知っていますが、そこで学んだことをまったく生かせていない連中です。それでも、一流大学で学んだということが、知的場面で抑止力となって働いているのです。裏返せば、学歴コンプレックスのある人間にとっては、「人を見て経歴を見ないこと」が抑止力への対抗策になります。

 閑話休題。アウトプットに先立ってインプットが必要なことが自明になりました。では、いかに宝を手に入れるか? まずは、寝食忘れるほど対象に打ち込むことです(明けても暮れてもこんなことはできないから、テーマと履修期間を決めるのです)。しかし、たいていの人間は、実際に学んでいる時間ほど学んでいないのです。本を読んでいるようで読んでいないのです。つまり、持ち腐れになるほど知識の在庫を抱えているわけではない。学んでも学んでも、次から次へと知識が蒸発してしまっているのです。

 宝の持ち腐れを心配する前に、宝を持たないで腐ってしまう身の上を嘆いてください。 

▼ 学習過多だが、成果不十分

これを「利益なき過剰仕入」と呼んでいます。つまり、知の自己破産ですね。百冊の本を読み、読んだ記憶に残っているのが10冊、そしてものになったのが1冊だとしたら・・・・・・財政破綻です。あなたは、それほど利のないビジネスに手を染めることはありませんね? にもかかわらず、採算の取れない「知的生産」に日々勤(いそ)しんでいるのです。学んだ分だけ使える技術などあるのでしょうか? あります。騙されたと思って3カ月続けてみる気があれば・・・・・・。

▼ インプットしたものをアウトプットにつなげる実践方法十箇条

ゴールは、「学んだことをいつでもどこでもスタンバイ状態にし、状況に応じてアレンジしてアウトプットする」です。

1 読み聴きして印象的なものはメモをとる(メモはアタマの補強道具です)。

2 後日でもよい、メモで触発されひらめいた事柄をスケッチのごとく書き加える(二度刷り込むことになります)。

3 覚えるよりも使おうとする意識を強くする(飲み会のよもやま話の折に、身近な知人友人に使ってみます)。

4 話を会話調に置き換えてみる(会話には場面が伴います)。

5 ことばを音として理解するのではなく、イメージに変換する(ことばを丹念に「観ます」)。

6 本には傍線や囲みを入れ、何かがひらめいたら引き出し線でワンポイントメッセージを記す(本は汚さずに読むものではなく、ノートのように書き込めばいいのです。後日読み返すときに即座に思い起こせるような参照マークが必要です)。

7 ノートは肌身離さずコンパクトなものを一冊用意し、それに何でも書き込む(上記の6からセレクトしたものも転記しておくと便利です)。

8 学んだ事柄に見出しやラベルをつける(大げさ、違和感のある見出しほど効果的です)。

たとえば、「眠れない? ならば羊を数えずに、羊を食べよう!」という具合。この見出しに続く本文の例:

「羊を常食するモンゴル人は、羊を食べると身体が温かくなり眠気を催すという。ちょうどコタツに入って足が温まるとついウトウトするような感じ。われら先進国の人間は不眠に悩まされる。なかなか寝つけない。どこの誰だかわからない心理学者のアドバイスにしたがって、羊を数える。羊を数えても最初の数回は効果があるかもしれない。しかし、ついつい正確に数えたくなって、そこに意識が誘われてしまい覚醒してしまう。羊は数えるものではなく、食べるものだったのである」。

文字にして書いてはいますが、実はこれは絵のスケッチにかぎりなく近いのです。ことばよりもイメージのほうが早く取り出せるのですね。

9 異種情報を組み合わせて記憶する(ノーマルな並列情報は記憶しにくいし想起しにくいのです。また、単体の孤立情報も記憶に残ってくれません。つねにジャンルの違う何かと何かをメリハリつけて記憶に残すようにします)。

10  むやみに情報を分類せず、ゴッタ煮のままにしておく(いつもデータベースの引き出しを開けておく状態に保ちます。主役である自分のアタマの中の情報を検索しやすくしておくのです)。 

03に続く》

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