第5講 スピーチとエッセイの技法02

基本の話(下)

 

 スピーチの基本心得の残りの六箇条です。 

 

7  どうすればうまく思いを伝えることができるか

 「思いが伝えられない」と嘆く前に、語り伝えるに値する「思い」があるのかどうかです。もし漠然としたものでもあるのなら、それが何であるかを強く意識すること。この意識なくしては、ぴったり当てはまることばをまさぐることなどできません。言いたいことが自覚できてもなお、百発百中の表現を探し当てるのは稀です。

 次いで、伝達に値する共有価値・緊急性・潤滑効果などがあなたの思いや意見にあるかと自問してみる。もしあるのなら、それをノートに簡単にメモしてみるのです。メモにできないようなら、意見は未成熟段階にあります。

 義務だから漠然と会議に出る―こんな参加姿勢でいるかぎり、一生意見の言える人間にはなれないし、意見の強い人と議論しても勝ち目はありません。要点メモを携えておくだけで、会議の意味は一変します。会議で意見をやりとりする力がつけば、スピーチは対話よりも簡単ですから、もうスピーチ上手になったも同然。              

 

8  パブリックスピーキングと日々の気づき

 上記7に続いてメモやノートの話です。ぼくの経験上、記憶力の弱い人ほどメモを取りません。その場をやり過ごします。日々そんな状態だから、いざ何かを話してほしいと言われたら、その時点から準備が始まります。要するに、ネタ不足人生ゆえのその場しのぎになるのです。

 見たり聞いたりしたこと、見たり聞いたりして気づいたことをその場でメモにし、気づいて考えたことを丹念にノートに取る。自分のノートを何度も読み返す。こうして記憶が定着します。ネタが増えます。知らず知らずのうちにコミュニケーションの財産になっていきます。

 人間の能力を高めることに驚くような方法や即効薬などありません。結局は平凡なことをコツコツやりとげるのが一番の近道です。もっとも確実で持続可能性が高いのが古典的なノートです。

 

  日常から発想する

 情報や物事は自分が「こうだ!」と思っているようにしか見えません。つまり、自分が描いている観念や枠組みの中だけで理解している気になっているのです。だから、「いろんなことに敏感」であろうと思えば、集中と緊張を高めて既知のものを見つめ直すしかありません。まずは身のまわりからです。現在の生活スタイル、他人と自分の関係、仕事のこと・・・・・・というふうに。

 

10     論理と直感を使い分ける

 論理的に考えるか感覚(直感)に頼るかは優劣の問題ではありません。何(テーマ)を何のために考えるかによって、どちらがより適切かが決まってきます。いや、実際のところ、論理的に考えてうまくいくか、それとも感覚的に判断してうまくいくかは終わってみなければわからないことがほとんどです。

 「えっ?」と思われるかもしれませんが、論理か感覚かで迷ったときは、ひとまず感覚を尊ぶべきだと思います。感覚的に考えたことを論理で修正するのに抵抗はありませんが、一度論理を使って考えてしまうと、思考や意思決定がある意味で「固定」されるので、感覚に戻るのは苦労します。

 

11  心象を描く力(表現力)の基礎は、現象や物象を描く力である

 《グライスの協調の原理》を知っているでしょうか。コミュニケーションに役立つ法則があるので、少々触れておきます。

 a  表現における「量」―必要なことがらを過不足なく話すこと。その量は多すぎてもいけないし、少なすぎてもいけません。

 b  表現における「質」―話す事柄が的を射たもの、事実に即したものであること。たとえばケーキをつくるときに必要なのは砂糖であって塩ではないこと。約束を決めるには日時・場所が必要だということ。とても常識的なことですが、表現の的確さに杜撰な人は多いものです。

 c  表現における「関係」―対話をやりとりするときは、対話のテーマに関係する事柄だけを述べること。無関係な他の事柄に言及して混乱を招いてはいけません。

 d  表現における「態度」―相手の話を理解しようと努めること。真剣な姿勢です。当面のテーマの発展に貢献できるような形で話をすること。聞き流すように相槌を打つなどは論外です。

 

12     「ゆえに」と「なぜならば」

 文法的な主述関係ではなく、論理的な理由付けをしようと意識すると語法の問題も少なくなります。「AゆえにB」という構造で話すようにすれば、自然と「Aという事例または理由を述べて、Bという結論を導く」という話し方になります。

 また、「Bです。なぜならばAだから」という構造のときは、Bという結論を最初に主張し、Aという事例や理由で説明をする」という発想になります。

《続く》

 

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