第5講 スピーチとエッセイの技法03
スピーチ上手のヒント(上)
スピーチとして話すのは、心象イメージをメッセージとして表現し伝えることです。スピーチは相手のいるコミュニケーションです。講話、演説、対話、ディスカッション、ディベートなど、さまざまな手段があります。これらをまとめて「弁じ論ずる」という意味で、「スピーチ」と総称することにします。
言うまでもなく、スピーチには正統なスキルもあれば裏技もあります。もっとも重要なのは自分の個性やスタイルなので、自分に合った話法や調子を見つけることになります。
1 歳相応のスピーチ能力をわきまえよう
あなたが二十代~三十代前半なら、徹底的に定番の話術を磨くべきでしょう。はじめにテクニックありき、です。「若いのに話が上手だ」というのがこの世代への賛辞だからです。
ところが、三十代半ばから四十代では、理性的な弁論が求められるようになります。話し方そのものよりも、話す内容が注目されます。同時に、耳の肥えた年上の知者を前にすることが多くなるので、度胸も必要になります。
五十代に突入したら、もはやテクニックや知力だけではありません。存在感が必要になりますし、スピーチが芸に近くなってきます。話す内容に対話の色が濃くなってくるでしょう。
2 つかみは少々デフォルメする
たとえ一発屋であっても、一時的に流行する芸人は、なんだかんだ言っても「つかみ」で成功しているものです。そして、つかみに穏やかなものはありません。一対一の対話なら味も余韻もありますが、スピーチ時は話者と聴衆の関係性はさほど深くありません。むしろ、薄く希釈されています。初見参ならなおのこと。フィルターが何重にもかかるようなおとなしい話し方では食い込めません。つかみは少々大胆、極端、大げさにデフォルメするのがいいのです。
3 主述をきちんと
よく5W1Hが重要と言われますが、最たるものはWhoとWhat、つまり「誰が何をした」です。少々ぎこちなくても、主語と述語の関係を明確にしましょう。主語は日本語では絶対条件ではないので、省略することが多いですが、複数の主格が登場するような話では、少々冗長になってもいいので、主述明快に話すべきです。
4 既知から未知へ
聴衆が知っていることを起点にして自分の意見や知られざる事柄を導けば、理解を促しやすくなります。たとえば、無名の都市の話をするときは、聴衆が知っていそうな都市名をあげて、「皆さんがよくご存知の◯◯市から南西の方向へ特急列車で2時間、そこに・・・・・・」という具合に。
地理や位置関係だけではありません。ことばの概念も同じです。知っている単語から知らない単語へと手摺り伝いに話せばわかりやすい。但し、たまには知らなさそうな用語をいきなり使うのも効果があります。
5 種明かし(結論)のタイミング
ちょっとスピーチを勉強したりビジネスコミュニケーションを齧ったりした人ほど、「結論早出し主義」を唱えます。結論後出しが望ましくないように、この考え方も必ずしも歓迎すべきではありません。スピーチは上司への報告とは違うのです。
結論が先に出てしまうと、残りの話を聞いてくれない可能性があるのです。いくら要点先行と言っても、スリリングな話ならオチはラストに来なければなりません。要するに、テーマと展開に合わせて柔軟に結論の出し所を決める必要があるのです。
6 聞き手の情報不足を補充
聞き手を引っ張り上げるか、聞き手のところに下りていくか・・・・・・理解してもらうにも喜怒哀楽してもらうにも、聞き手がまったく無知であっては共感を得ることはできません。こんな場合、スピーチの前段では、本題を理解してもらうための情報提供の必要が起こってきます。とりあえず、話し手と聞き手の情報落差を埋めるのです。対象によっては功を奏さないので、梯子を下りていって聴衆の知識レベルや関心度に応じて話をしなければなりません。
7 丸暗記をやめる
3分であれ5分であれ、スピーチ原稿を事前に作って暗記するのはたいへんな労力を必要とします。その苦労のわりには、前後に誰かが披露するスピーチと連動しないから場違いな話になることがあります。また、覚えたことを忘れてしまってしどろもどろになってフリーズすることもあります。スピーチの丸暗記は、コストパフォーマンスがきわめて悪いのです。
スピーチのおもしろさはライブな臨場感と即興性にあります。何よりも、昨日仕込んだ話を今日披露することになるので、もしかすると賞味期限問題が発生するかもしれません。
どうしてもスピーチの準備をするなら、つかみと締めくくりだけを表現レベルで考え、おおよその流れは二つjか三つの箇条書き構成しておきます(完全文章化しない)。あとは成り行きでいいのです。ことばに詰まるのも臨場感にプラスという具合に考えておきましょう。
《続く》