第5講 スピーチとエッセイの技法07

効果的話法の考察(下)

 

 今日はスピーチの切り出し方と締めくくり方について考えてみます。

 まず、切り出し方、つまり「つかみ」です。第一印象がすべてを決めるなどという極論はしませんが、その後の話へのアテンションに影響をもたらすことは否定できません。「ただ今紹介いただきました・・・・・・」で始めるしかないようでは工夫が足りません。

 1 オープニングの直前、聴衆の気分は新鮮で、少なからぬワクワク感を抱いているので、印象づけのチャンスです。慣れてくれば、ライブ感のある即興でもいいのですが、行き当たりばったりで失敗すると取り返しがつきません。少なくとも切り口となる話題を一つ用意し、表現もある程度を練っておくのがいいでしょう。 

 2 導入は短いほうがうまくいくように思います。時間的短さのことではなく、二、三のセンテンスで完結させるという意味です。なるべく早々にテーマの核心に入るのが理想です。

 3 ユーモアは転ぶと目も当てられないので、スピーチの初心者は避けるべきです。だからと言って、ありきたりな、たとえば「スピーチは苦手なので・・・・・・」などの言い訳や謝罪をしてはいけません。

 4 フォーマルスピーチは今の時代にはほとんど出番がなくなりました。自由闊達でカジュアルくらいでちょうどいいのです。つい形式的スピーチをしてしまう人は、「一昨日の話です・・・・・・」とか「新聞を読んでいたら・・・・・・」というような身近な話や体験話から始めるようにしてみるといいでしょう。

 5 主な切り出し方として、カーネギーをはじめ著名な弁論研究家の助言をまとめておきましょう。

 ・ 好奇心をくすぐること(すなわち、聴衆が興味を持ちそうな話)

 ・ 具体的な場面が浮かぶ話

 ・ 問いかけ(たとえば、今日この会場に来られる途中で、ハッとすることがありましたか? など)

 ・ 有名人の書物からの引用

 ・ 最新のニュース

 ・ 聴衆の利害にかかわる関心事

 

 次に、スピーチの締めくくり方です。オープニングに比べるとエンディングのほうがたやすいと言う人がいますが、必ずしもそうではありません。くどい終わり方をしてしまうと、それまでのスピーチへの好印象が台無しになることがあるからです。

 1 スピーチの終え方にも計算が必要です。第一印象と同程度に、最後に話すことも強く記憶に残ります。むしろ、出だしよりも最後のメッセージのほうを聴衆はよく覚えるかもしれません。

 2 「以上をもって私の話とします」や「このへんで終わりたいと思います」のような常套文句を使うべきではありません。せっかくいい話をしていたのに、この型通りの表現はいただけません。スピーチを終了することをわざわざ告げる必要はないのです。

 3 話し手が計算しているエンディングのタイミングが聴衆のエンディングの予感とズレてはいけません。聴衆の「そろそろ終わりかな」という予感に敏感になって締めるタイミングを外さないように。スピーチの最後のピークを過ぎてもなお、話し続けるのは鈍感というものです。 

 4 クロージングの方法の大半はオープニングと同じです。たとえば、笑いを喚起したり名言を引用したりして終わればクライマックス効果が生まれます。さらに、

 ・ 話でもっとも重要なハイライトを繰り返す(要約はくどくなるので、注意が必要)

 ・ 話をきっかけにして何がしかのアクションを起こすよう呼びかける

 ・ 静聴への感謝は述べてもよいが、平凡にならないような工夫が必要

 

《続く》

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