第5講 スピーチとエッセイの技法06

効果的話法の考察(中)

 

 「効果的話法」という見出しで話していますが、これは話し手の目線に立っています。実は、話が効果的であったかどうかは、聞き手の反応を見てうかがい知るしかありません。今さら強調するまでもないですが、話を聞いている人たちが興味をそそられたかどうかによって、話法の効果を評価すべきなのです。興味を覚えてもらうための定番セオリーを四つ紹介します。

1 人は珍しいことに興味を覚えます。けれども、話し手がそんなエピソードにいつも巡り合って豊富なネタにしているわけではありません。ぼくのネタはほとんど日常茶飯事に見つけるものです。普通のことです。その普通のことが、見方を変えれば尋常ではなくなる―こんなとき人は「へぇ」とか「なるほど」と思うものです。

2 人間の最大関心事は自分自身です。すべての人はナルシストです。自分のことが語られると、人は体験に照らし合わせて耳を傾けますから、大いに理解が進みます。「ここにおられる皆さんの中に・・・・・・」という言い方などは、多数の人々に向かいながら一人の「あなた」に焦点を絞っています。

 思い当たることがあれば、それは自虐的なことでも自慢ごとでも平凡なことでも共感してもらえます。「フランス料理店で料理がサーブされるときの、シェフの薀蓄。なければ寂しいし、長いと退屈しますね」というありきたりの話でも、一度でも経験をしていれば「うん、うん」と頷いてくれます。

3 ぼくは動物学や動物行動学に興味があったので、その方面のおもしろい話題をよく提供します。でも、得意でもない話をスピーチのためににわか仕入れすると失敗します。よくわかっていないことは取り上げてはいけないのです。確実に興味を覚えてもらえる話は「人にかかわるゴシップや教訓」です。「皆さんよくご存知の◯◯は・・・・・・」や「ぼくの友人に□□をしている人がいて・・・・・・」などは、どうということのない切り出しですが、興味は持続します。

4 パワーポイントが講演や研修でもほとんど必須になってきました。しかし、タイミングをわきまえて話の補足として上手に使いこなせている人は少ない。ビジュアルがなくて話だけで絵やイメージが浮かんでくるような表現ができる人だから、パワーポイントもうまく扱えるのです。基本は話です。話を通じて、ことばの意味とイメージが浮き上がるようにしなければなりません。「ツバメがやってくる季節」よりも「民家の軒下にツバメの巣がある」のほうがイメージ再生しやすくなります。

 

 次に、意味を明確にするポイントをお話しします。意味が明快に伝わらないのは、情報が多すぎたり概念が大きすぎたりするからです。シンプルに絞り込んで、ここぞというときは懇切丁寧に話すのがいいでしょう。

 

1 話そうと考えていることは、何よりもまず自分の頭の中で銘菓になっていること。自分にとって未知であること、確信のないことを決して主題にしてはいけません。未来のことを話すにしても、既知の事実から導くのが手順です。

2 「アマチュアに対しては専門語を使うな」とよく言われますが、それは不可能です。テーマによっては、その道の専門知識や専門用語をある程度使わなければ、事実がきちんと伝わらなくなることもあります。核となる専門語は使えばいいのです。使ってその上で、比喩を使ったり説明をていねいにしたりする。また、抽象的・概念的メッセージには具体例を添えます。

3 それでも理解がむずかしそうならば視覚に訴えます。可能ならば、実物、写真、イラストなどを実際に用います。カーネギーだったか別の人だったか忘れましたが、「右目の上に黒い斑点のあるフォックステリア」と描写表現できるとき(またはそうすべきとき)に、「犬」という大きな表現で済ますのは不親切です。スピーチが無機的に響いてしまいます。 

4 一番言いたいこと、強調しておきたいこと、とっておきのアイデアなどは嫌味にならない程度なら、少々繰り返してもいいでしょう。そのとき、同じことばや言い回しをするのではなく、文章や表現を変えるのがポイントです。

5 メッセージを欲張らないように。ぼくの場合、1時間半の講演なら構想持点では4時間分くらいだと思います。それを切り落としていきます。サービス精神であれもこれもと盛り込みすぎるとだいたい失敗します。増やすのは簡単なのですが、集約したりハイライトしたりするのは簡単ではありません。1時間程度の短いスピーチでは、テーマはもちろん一つ、そしてポイントは二つか三つであると心得てください。

《続く》

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