第5講 スピーチとエッセイの技法08

エッセイの基本(その1) 

 

 前回までスピーチの話をしてきました。今日からはエッセイです。スピーチのコツやヒントのほとんどは書くことにも当てはまります。但し、何について、誰に対して、どんなトーンで書くかという点に関して、エッセイのバリエーションはスピーチを凌ぐでしょう。書くことを負担に思う人も多いですが、臨機応変というスピーチならではの手かせ足かせを外せます。

 とらわれのないスタイルで思いや意見を述べたり読み手を楽しませたりなど、スピーチに比べれば自由奔放に振る舞うことができます。生放送のスピーチでは「かくあらねばならない」という意識が強くなりますが、エッセイではそのような強迫観念は無用です。しかし、メッセージをよく伝えるためにはエッセイ固有のコツと法則もあります。

1 エッセイとは

 英語ではessay、フランス語ではessaiです。日本語では通常「随筆」と訳されます。学術的な試論や小論文のこともエッセイと呼ぶことがあります。

 エッセイと随筆には若干のニュアンスの相違があります。エッセイには「自由な形式で書かれた『思索的色彩』の濃い散文」という意味合いが強いと思います。これに対して、随筆は『広辞苑』にあるように、「見聞・経験・感想などを気の向くままに記した文章。漫筆。随想」です。どうやら、わが国ではそんなに考察したり思索したりしなくてもいいようです。

 ここで言うエッセイからは「気の向くままに記したもの」を排除することにしておきます。少しでも自分の考えていることを書くこととします。

 

2 エッセイのテーマの着眼と展開のおもしろさ

 「個人的な意見」を一般または特殊な読者に共感してもらうためには読んでもらえるような工夫が欠かせません。清く正しく美しく、そして易しく文章を綴るだけではうまく行かないのです。日本流の随筆のように、たとえ気ままに、思い浮かんだまま自然に時系列にしたためても、エッセイという体裁にはなってくれません。プロット(筋や構想)も必要です。

 

3 アブストラクト(抽象、要約)という考え方

 アブストラクトは、小論文にはそのまま使えます。もっと自由形式のスタイルで書く場合にも、メッセージの主要点を拾い出しておけば、端的に融合することができます。

 アウトライン(枠組み、構成)は、上位概念から下位概念へと組み立てます。書物の目次と同じことです。

 Ⅰ ◯◯◯◯◯

   A XXXXX

     1 ・・・・・・・・・・

     2 ・・・・・・・・・・

   B YYYYY

     1 ・・・・・・・・・・

     2 ・・・・・・・・・・

 II □□□□□

   A XXXXX

     1 ・・・・・・・・・・

     2 ・・・・・・・・・・

   B YYYYY

     1 ・・・・・・・・・・

     2 ・・・・・・・・・・

 ⅠとⅡは最上位の概念、ABは中概念、そして1と2が小概念です。概念レベルごとに自分の考えていることを要約できていれば、筋の通った文章を書くことができます。

 

4 語彙増強のヒント

 (a) 思考受容器の大きさと表現力・語彙力は比例します。語彙が少なければ思考できることも制限されます。もっとも効果的な方法は読書です。時には骨のある文章を読みます。そうしなければ、思考の幅も語彙力も広がりません。

 (b) 語感は意識的に勉強できます。しかし、それだけでは認識にとどまります。結局は、冒険も兼ねて何度も何度も繰り返し書いてみるしかありません。

 (c) 本質を短文で表現する訓練、すなわち要約の練習です。1200文字の文章を100字にまとめるとき、別の表現力が求められます。また、本来なら長文や膨大なイメージを要することを、シンプルな短文にしたり数語でタイトルやコンセプトにしたりすることも意味のある練習です。必然、類義語辞典を引くようになり、語彙が増えるようになります。

 (d) 始めて見る単語、おもしろそうな用語、一言でうまくポイントを言い表せそうな表現をメモしておくこと。面倒臭がらずに、読書のたびにテレビを見るたびに書いておくことです。

 (e) ことばには情感言語と情報言語があります。情感言語とは「頑張ろう」とか「一所懸命」など、感情的に鼓舞する表現です。情報言語とはそこに明確な目的なり意図なり具体性が備わっていることばです。「何が何でも明日まで頑張るぞ!」が情感言語、「今夜一時間に一枚レポートを書き、明日の午前中に仕上げて提出する」が情報言語です。情感言語は文章に雰囲気を与えますが、読者にはよく伝わらないことがあります。

 

《続く》

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