第5講 スピーチとエッセイの技法09

エッセイの基本(その2)

 

 エッセイストでもないのに書いてもしかたがないと思っている人がいます。文章を書くのは、必ずしも誰かに読んでもらうためや発表するためではありません。書くことは思考を明快にしてくれるのです。

 古代ギリシアでは文字にすることを蔑んで、語ることばを上位に置いた時代がありました。それでもなお、思考を形にするうえで書くことに依存したのです。では、前回の続き。エッセイのヒントをさらに6ヵ条。

5 短文は望ましいか

 長文よりは短文で書くことを意識すべきでしょう。しかし、短文がつねにわかりやすいとはかぎりません。コンパクトすぎて説明不足になる場合もあるからです。格言や俳句が多義性を帯びたり、文意が取りにくくなったりするのと同じ理屈です。

 短文の目安として「一文40文字説」が参考になります。それでも、人それぞれの文章スタイルというものがあるので、これも意識過剰にならなくてもいいでしょう。なお、短文化を貫くと、文章どうしのつながりが唐突になるため、必然接続詞が増える傾向になります。接続詞が多すぎると、これもまた煩わしいものです。

 

6 読み手を迷路に引き込まない

 読み手が無理に背伸びしなくてもいいように、とりわけ出だしで難解な用語を使わないほうがいいでしょう。読み手が必死にならなくても読み進められる文章が理想です。但し、わかりやすさにも限度があります。わかりやすさを追求しすぎると、逆に冗長になって混乱を招くこともあります。

 少々難解であっても、最終的に迷路の真ん中で右往左往さえしなければいいのです。また、稀に、わからないことからこそ理解への意欲が高まるケースもあります。たとえば古典の引用文などのように、意味はわからないが、なんとなく鼓舞されるという場合があるのです。

 

7 全体スケッチ

 どんな名画も出発点は一枚のラフなスケッチであったはず。テーマ全体を見渡せれば部分が書けるようになります。逆に、箇条書きをいくら束ねても文脈は出来上がりません。地図があるから現在地がわかるのです。これから書こうとするプロット(筋書き)が地図です。

 

8 主題

 全体像が見えたら、主題文を書きます。このエッセイをもし一行で書くなら・・・・・・という発想で書きます。主題文には重要なキーワードを含めます。この主題文がエッセイの冒頭でいきなり出てくるとはかぎりません。何のために書いているのか、何を書こうとしているのかをいつも念頭に置いておけば、ここぞというときに主題文をアレンジして書くことができます。

 

9 ストーリーの構成

 学校では専門的に書くことを教えてくれません。作文を教えることも、書かれたものを添削するのもきわめて難しく、教える側の力量が問われます。残念なことに、社会に出てからも文章力や構成力は独学独習するしかありません。昨今、短いメールやツイッターで用件を済ませるようになったため、息の長い論理的な文章を、たとえば原稿用紙にして3枚や4枚の単位で書ける人が少なくなっています。

 さて、主題文が書けたら、その考えに近いコンセプトや事柄を漏れなくポイントとして並べてみます。導入、展開・例証、結論―順序はともかく、どのポイントをどの箇所で使うかを考えます。

 エッセイに書き慣れてくると、「考えてから書く」という作業が「考えながら書く」という作業に変わり、やがて書き始めれば勝手にテーマが展開してくれるようになります。アドリブ的に書いていっても、段落が旨く展開してそれなりに格好がついてくるのです。

 

10 どんなタイプのエッセイか

 練習として書くのであれば、あることについて少なくとも原稿用紙一枚(四百字)、できれば二、三枚をこなすべきです。この程度の小文を書く癖をつけておかないと上達は期待できません。

 エッセイのタイプを決める尺度はいろいろありますが、エンタテインメントか、啓発か、情報提供か、実務的かなどを参考にすればいいでしょう。

 楽しませるためか、ある種の目的のために書くのかによって、エッセイの文体はまったく趣を変えます。

 

《続く》

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